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ごめんね…

××× 暗い部屋の中、携帯を開く。 バックライトが点き、無表情な僕の顔を蒼白く照らす。 ……樹さん…… どうしよう。 僕、また今井くんを怒らせちゃった…… 通知がないまま……ずっと覗く事の無かった、ゲイ専用の出会い系サイト。 そっと、親指でタップする。 最初に表示されたのは、キャップのツバを下げ、目元の隠れた顔写真。 この帽子は、大空が持っていたもので。 確か、五月の連休明け──大遅刻をした大空が、休み時間になって廊下に出た僕を見つけるなり、被っていたキャップを外して僕に被せ…… 『……お前、ホントちっせーな!』 そのキャップが少し大きくて。 ……大空の匂いと温もりも感じ……恥ずかしくなって、俯く。 ……その姿が可愛いからって、大空に撮られた写真だっけ…… 懐かしさが込み上げ、胸の中がじんわりと痺れて温かくなるのに……ちくちくと痛い。 何件かメッセージが入っているものの、全てマッチング希望のもので。 ……樹さんからは、やっぱり何も来ていない。 「……」 それらを開いて削除しながら、ふと気付く。 まだ開けていない筈のメッセージが、既読になっている事に。 胸の中がざわつき、落ち着かない。 受け取った日時を見れば……今日の午後。 「──!」 ……まさか。 真っ先に脳裏を過ったのは、僕の携帯を弄る、今井の姿。 瞬間──サッと血の気が引く。 指先の感覚が失われていくのに、心臓だけが、やけにドクドクと暴れまわる。 「……」 サイトからの通知音を、着信音だと勘違いして……それで、拾って…… ……でも、あの時は出掛けようって言って……僕を責めたりしなかった。 外に出て、友達と会ってから……急に冷たくなったけど…… 『そんなに兄貴がいいのか!?』──あの時の言葉の意味は、何となく解る。 今井くんのお兄さんとの距離が近かったし。僕が、誰とでも関係を持つと思われたのなら……余計にそう、誤解したかも。 ……それに。 今井くんの前で、僕は「うん」しか言ってなかった気がする。 何か、怖くて。 見た目も、雰囲気も。怖くて。 何か言ったら、また乱暴にされるんじゃないかって…… ……だから…… 見透かされていたのかもしれない。 もしかしたら、最初から。 僕が、今井くんを……好きじゃないって…… 「……」 ごめんね……今井くん…… 溜め息をつき、携帯の画面を切る。 暗くなった部屋の中、布団の上で膝を抱える。 ピルルル…… 手中にある携帯が鳴り、顔を上げる。 見れば、画面に表示されていたのは……『今井くん』の文字とメッセージ。 《話がある》

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