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濡れる

頭の中で、点と線が繋がる。 それまで不可解だった今井くんの言動が、紐解かれていく。 大空を失って辛いのは、僕だけじゃない。 そう、頭では解っていたつもりだったのに……全然解ってなかった。 何も、彼女だった佐藤さんだけじゃない。今井くんだって── 「……」 その今井くんに、僕は縋りつこうとした。助けて欲しいからって、ただそれだけで。 「……ごめんな」 苦しそうな声。 どうしてそんなに、今井くんが謝るの……? 「優しくできねぇで……」 「……」 僕だって、同じように今井くんを傷付けたのに…… 俯いたまま頭を小さく横に振れば、遠くから、微かに溜め息が聞こえた。 会計を済ませ、外に出る。 それまでの青い空が一変し、灰色の厚い雲に覆われ、辺りが薄暗くなり、涼しい風が強く吹く。 「……ひと雨、降りそうだな」 そう今井が呟いた途端、バケツの水をひっくり返したような大粒の雨が。 直ぐにできた水溜まりを飛び越えながら、走って店の軒下に避難する。 夏特有の、ゲリラ豪雨。 向こうの空は晴れ渡っていて、その下には先程までの日射しと暑さが変わらずにあるというのに。 「随分濡れたな」 「……」 「タオルと傘、貸してやるから……うちに、寄れ」 「………え」 「何もしねぇから」 答える間もなく掴まれた腕を引っ張られ、視界の白んだ豪雨の中を、今井くんと走る。 目と鼻の先にある、今井くんのアパート。 外廊下のアスファルトには、色濃く滲む、点々と垂れた雫と靴跡。 胸倉を掴まれ、殴られそうになった時の光景が蘇り、ぶるっと身体が震えた。 「待ってろ。今、タオル持ってきてやるから」 ずぶ濡れのまま、玄関に入る。 濡れた靴下を脱ぎ捨て、今井くんが部屋へと駆け上がる。 暫くしてタオルを持って戻ってくると、僕の頭にそれを掛け、ぐしゃぐしゃと髪を拭いてくれた。 まだ、自分は濡れたままなのに…… 「……」 怖い……だけじゃない。 時折見せる、こんな痛い程の優しさにも触れてきたのに…… どうして僕は、今井くんをちゃんと見ようとしなかったんだろう。 ただ怖いってだけで……遠ざけて。理解しようともしなかった。 自分から、伸ばされた手を取った癖に。

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