51 / 112
濡れる
頭の中で、点と線が繋がる。
それまで不可解だった今井くんの言動が、紐解かれていく。
大空を失って辛いのは、僕だけじゃない。
そう、頭では解っていたつもりだったのに……全然解ってなかった。
何も、彼女だった佐藤さんだけじゃない。今井くんだって──
「……」
その今井くんに、僕は縋りつこうとした。助けて欲しいからって、ただそれだけで。
「……ごめんな」
苦しそうな声。
どうしてそんなに、今井くんが謝るの……?
「優しくできねぇで……」
「……」
僕だって、同じように今井くんを傷付けたのに……
俯いたまま頭を小さく横に振れば、遠くから、微かに溜め息が聞こえた。
会計を済ませ、外に出る。
それまでの青い空が一変し、灰色の厚い雲に覆われ、辺りが薄暗くなり、涼しい風が強く吹く。
「……ひと雨、降りそうだな」
そう今井が呟いた途端、バケツの水をひっくり返したような大粒の雨が。
直ぐにできた水溜まりを飛び越えながら、走って店の軒下に避難する。
夏特有の、ゲリラ豪雨。
向こうの空は晴れ渡っていて、その下には先程までの日射しと暑さが変わらずにあるというのに。
「随分濡れたな」
「……」
「タオルと傘、貸してやるから……うちに、寄れ」
「………え」
「何もしねぇから」
答える間もなく掴まれた腕を引っ張られ、視界の白んだ豪雨の中を、今井くんと走る。
目と鼻の先にある、今井くんのアパート。
外廊下のアスファルトには、色濃く滲む、点々と垂れた雫と靴跡。
胸倉を掴まれ、殴られそうになった時の光景が蘇り、ぶるっと身体が震えた。
「待ってろ。今、タオル持ってきてやるから」
ずぶ濡れのまま、玄関に入る。
濡れた靴下を脱ぎ捨て、今井くんが部屋へと駆け上がる。
暫くしてタオルを持って戻ってくると、僕の頭にそれを掛け、ぐしゃぐしゃと髪を拭いてくれた。
まだ、自分は濡れたままなのに……
「……」
怖い……だけじゃない。
時折見せる、こんな痛い程の優しさにも触れてきたのに……
どうして僕は、今井くんをちゃんと見ようとしなかったんだろう。
ただ怖いってだけで……遠ざけて。理解しようともしなかった。
自分から、伸ばされた手を取った癖に。
ともだちにシェアしよう!