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…抑えきれねぇ
「……実雨」
髪を拭く手が止まる。間近で僕を見つめる、双眸。
その真っ直ぐな瞳には、僕を溶かす程の優しさと熱が宿り、引力のように吸い込まれて……目が離せない。
「やっぱ、してぇ……」
切なく囁かれる、吐息混じりの声。
今井の手が僕の頬に、そっと触れる。
脅えながらも……確かめるようにゆっくりと近付く、唇。
「………ん、」
重ねられる熱。
苦しくなる程優しくて……切なくて。
僕に触れた大きな手。震えるその指先。
足下に落ちる、タオル。
それを気に掛ける余裕もなく、今井くんの舌が咥内に入り込む。
瞼を閉じたまま顎先を少し上げ、そのキスに答える。
「………ぁ、」
湿った髪の先が揺れる。
座る今井くんの上に跨がったまま、下から何度も突き上げられて……
「実雨……、!」
その度に、打ち込まれる奥が、甘く、柔らかく疼く。
「………ゃ、あぁ……!」
顎先を上に向けるものの、息苦しさは変わらなくて──
ゆらゆらと光って揺れる水面が、あんなにも遠い。
上下に激しく跳ねる、身体。
振り落とされないよう、必死で今井くんの肩にしがみつく。
雨と汗で濡れ、火照った身体。
今井くんの、匂い……
「………あぁ……、いっちゃ……」
「イけよ──」
浮き出た鎖骨の辺りを食まれ、新たに付けられる、印。
ゾクゾクと震え、何だかおかしくて……
溶けて無くなっちゃいそうで──必死にしがみつく。
「──あぁぁ……っ、!」
*
「──可愛いな、お前」
耳元でそう囁いた後、僕の後ろ髪を手櫛で梳きながら、大きな手のひらで優しく包み込んでくれる。
「俺のなんかで、イったりしてよ……」
「……」
今井くんの肩に顔を埋め、身を委ねたまま、その声と温もりをぼんやりと感じていた。
「でも……俺には心、開いた事ないよな」
「………え」
核心をつかれて、びくんと身体が反応する。
胸の奥底に隠れていた不安が、じわじわと滲んで広がり……冷めた現実が、背後から僕を襲う。
「お前がずっと、大空 を想っているのは、解ってる」
「………」
「ごめんな。この身体も心も、大空のモンなのにな」
「……」
──違う。
違うよ……
肩に縋りつきながら、頭を横に振る。
だって、今井くん……知ってるよね。
僕が、出会い系サイトに登録してるって。
優しく手を差し伸べて、この淋しさを埋めてくれる人なら、誰でも良かったんだって。
……その為に、今井くんを傷付けた、最低な人間だって……
「……抑えきれねぇんだ。
辛くて堪らねぇ……
何度抱いても、この身体に印を付け ても。
お前が俺のモンじゃねぇって……思い知らされるだけで──」
──ドクン
嫌な予感が、した。
「その度にイラついて、つい乱暴にしちまう。
……このままだと、いつかお前を──」
「──!」
両肩を掴まれ、ぐいっと引き剥がされる。
感情を隠せないまま今井くんを見れば、穏やかな表情を浮かべ、口角を緩く持ち上げながら、その瞳は憂いに満ちていた。
「──だから、別れよう」
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