58 / 112

再会

《急用が入って、行けなくなってしまいました》 《また後で、会おうね》 携帯の画面に表示された、ミキさんからのメッセージ。 「……」 期待と緊張で高まっていた分、その落胆は大きくて。 樹さんらしくない淡々とした文に、一抹の不安が過る。 〈わかりました〉 〈また、会えるのを楽しみにしています〉 深い溜め息をつき、片手で胸元を押さえる。 緊張の糸が切れたせいか。落胆の中にほっとした気持ちが入り混じっている事に気付く。 「……」 店を出て、来た道を戻る。 その足取りは重く。やっぱり会いたかった、という気持ちばかりが大きく膨らんでいく。 街の喧騒と眩いネオン。 今の僕には居心地が悪く。それらを避けるように、裏道へと逸れる。 表通りから一本入っただけなのに。その煌びやかさとは随分とかけ離れた暗い道で。心なしか、気温まで下がったように感じた。 ぽつぽつと並ぶ小さな外灯。閑散としたシャッター通り。 その侘しい雰囲気が、かえって僕の心を落ち着かせてくれた。 「……こんばんは」 少し歩いた所で、突然声を掛けられる。 驚いて見れば、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた男が、僕の隣に貼りついていた。 「アメくん、だよね」 「……え、」 どうして……その名前…… 驚きと恐怖から、足が竦んで立ち止まる。 その一瞬の隙をつき、僕の正面に回り込んだ男が、ニヤニヤと嫌な目付きで僕を上から下から値踏みする。 「………やっぱり、可愛いなぁ」 「……」 「ミキって、僕の事だよ」 ……え…… 何を、言ってるの…… この人は、ミキさんなんかじゃ、ないのに。 困惑する僕に、男が携帯を取り出し、その画面を掲げて見せる。 「“また後で会おうね”、って送ったら、落ち込みながらも、“会いたい”って返してくれたよね。 ……だから、会いに来たんだよ。 ずっと見てたよ。店の外から、健気に反応する君の姿を。 ……本当に、可愛いなぁ」 「……」 気持ち悪い声でくつくつと笑いながら、男がゆっくりと近付く。 声も出ず、身体が硬直して動けない。 逃げなきゃなのに。そんなの、解ってるのに…… まるで蛇に睨まれた蛙のように、脅えながら男を見上げれば、大人しく言うことを聞くと思ったのか。容赦なく男の手が伸びる。 「じゃあ、行こうか」 「──行くって、どこ?」 すぐ背後から聞こえた、男の声。 驚いて振り返れば、そこにいたのは、ラフな格好をした───魁斗(かいと)

ともだちにシェアしよう!