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懐かしい温もり2

言葉とは裏腹に、大きな手が僕の髪をそっと撫でる。 「もし俺が、本気で襲ったとしたら……お前、どうするつもりだよ」 「……」 どうするって…… 今井くんとの関係が、全て無かったものにされてない事が……嬉しくて。 全然そんな事、思いもしなかった。 それに…… 「……多分、しないよ。だって、今井くんにはもう……石田さんが、いるみたいだから……」 「はぁ?!……なに寝ぼけた事言ってんだ」 「……」 「……まさか、この前の事か?」 眇めた今井の眉間に、深く刻まれる縦皺。 こくん、と小さく頷けば、深い溜め息が漏れる。 「あれは、文化祭で使う小道具の買い出しに行っただけだ。変に勘繰ってんじゃねぇよ」 「……」 「俺は、今だってお前を──」 ぶっきらぼうに言い放った後、視線がスッと外される。 鋭く吊り上がった目。だけどその頬は、少しだけ赤く染まっていて。 その反応が、……可愛い。 不思議。 付き合ってた時は、あんなに怖くて。 苦しくて。辛くて。 今井くんの隣が、こんなに心地良いなんて……知らなかった。 もう少し早く、知りたかったな…… 「……!」 俯いた僕の項に掛かる、今井くんの手。 それに気付いて顔を上げれば、瞳を柔く閉じた今井くんが、スッと唇を寄せて…… ふわりと香る、今井くんの匂い。 僕を抱き止める、大きな手。 深く重なる、唇。 熱い舌が差し込まれれば……次第に蘇っていく、熱い夏の記憶。 舌が絡まる度に、時間が巻き戻り…… あの夏の終わりに重ねた劣情が、脳内を支配していく。 ……酷く懐かしくて、切なくて……心が擽ったい。 「………実雨」 唇が、ゆっくりと離れていく。 その隙間に吹き込む、冷たい秋風。 与えられた熱は、現実を思い知らされる度に、簡単に風の中に消えていく── 「何で、受け入れんだよ」 「……」 「ちゃんと拒否らねぇと、本気で食っちまうぞ」 「………うん」 「うん、って。……お前、ちゃんと意味解ってんのかよ」 呆れたような、困ったような表情(かお)。 見た目は厳つくて。ガタイも良くて。目だって鋭く吊り上がってて、怖い人にしか見えないのに。……可愛い。 「──うん、いいよ。今井くんがそうしたいなら」 「馬鹿、お前……」 スッと、僕から手が離れる。 途端にできる、今井くんとの距離。 たった数センチ。 だけど、もう……それを埋めるだけの理由が見つからない。 「……なぁ、実雨」 「………」 「渡してぇもんがある」 ガシガシと後頭部を掻き、視線を逸らしたまま、今井が続けて言う。 「今日の帰り──俺んちの近くの喫茶店、解るだろ。そこで、待っててくれ」

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