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待って…!
『なぁ実雨。……お前、どー思う?』
ふと、脳裏を過ったのは──図書室の薄暗い書庫で、佐藤さんに告白された大空が僕に言った一言。
あの時大空は、どんな気持ちで聞いてきたんだろう。
「………」
指輪を嵌めようとして、止める。
それまで、佐藤さんが大事に付けていたのかと思うと……そうしたらいけないような気がして。
制服の前を開け、左の内ポケットに仕舞う。
心臓に近い分、大空と深く繫がっているような気がする。
テーブル脇に寄せられた、湯気を失ったコーヒー。カップの取っ手に指を絡め、口に近づけながら、ふと、何気なしに視線を外に向けた。
「──!」
ガラスに薄く映る僕の向こう──寂れた商店街を、疎らながら行き交う人々の中に、一際背の高い人影が闇に紛れ込むように消えていき……
──ガシャンッ
「……」
何かが、僕の中で弾け飛ぶ。
それはまるで、地面にぶつかった水風船のように……張り詰めていたものが、パシャンと割れて──
溢れてくる何かが静かに広がって、身体中を駆け巡り……ゆっくりと、僕の細胞ひとつひとつを作り替えていく。
「……」
沸き起こる衝動を、抑えきれなかった。
ソーサーから外れ零れたコーヒーをそのままに、店の外へと飛び出す。
*
闇が空に掛かり、仄暗く染まる街。
点々と光る外灯。店の照明。
だけど、僕が目指している先だけは、鮮やかに色めき立っていて。秋風が吹き抜ける中、懸命に追い掛ける。
──はぁ、はぁ、
運命だと、思った。
こんな奇跡、二度とない。
嬉しいとか、幸せだとか……そんな単純な言葉では言い表せない程の、衝撃と昂り。
心臓が、胸を突き破ってしまうんじゃないかって程激しく暴れ回っているのに……身体中が痺れて、その感覚を失っていく。
──はぁ、はぁ……
縺れそうになる足を懸命に動かし、前へ前へと身を乗り出す。
今、引き止めなければ……きっと後悔する。
早く、早く追い掛けないと──
「………待って!」
背中に向かって、声を上げた。
自分でも驚く程の声量に気付き、急に足が竦んでしまう。
だけど……もう後になんか引けない。
「……待って下さい、樹さんっ!」
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