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冷えた手

闇の中に浮かぶ、鋭く尖った瞳。 答えられずにいれば、空いた手で僕の顎先を抓み上げ、凄んだ顔を寄せる。 「……あれは、どういう事だ」 「………」 「お前、さっきの野郎に、抱きついてたよな……?」 静かに、だけど腹の底から沸き上がる感情を必死で抑えている様子で、僕に詰め寄る。 「慌てて店を出て行くお前に声掛けても……お前、俺に全然気付かねぇで。 外に出てみりゃあ、さっきの野郎と見つめ合って、いい雰囲気になってるしよ」 「──!」 ……え…… 今井くん、あの時まだ、店の中に……? 真っ白になる頭の中で、店を飛び出した時の光景を必死に思い出そうとする。 「あの野郎に抱かれて、心まで奪われたか?」 「……」 「俺と付き合ってる間──一緒にいる時も、セックスしてる時も、殆ど上の空だったのは………あの野郎を想ってたって事だよな……」 「……」 顎にあった指先が、滑るようにして下へと移動する。そして、僕の喉を掴むようにして、頸動脈に指が掛かった。 「お前………大空が好きだったんじゃなかかったのかよ!!」 言うか言わないかのうちに、指先が首筋に食い込む。 ドクドクと、激しく脈動する音が耳奥で響き、じりじりと頭が痺れていく。 ……違う…… そう言いたいのに、怖くて。 身体が硬直し、息もまともにできず……今井くんを真っ直ぐ見つめたまま、小さく頭を横に振る。 だけど、例え喋れる状況だったとしても……どう伝えた所で、樹さんを好きなのには変わりなくて。 今井くんを苛つかせてしまったのは、確かだから…… 「………」 目を合わせたまま……僕の首を掴む今井くんの手に、おずおずと触れる。 武骨で、大きな手── 指先が痺れて、余り感覚はないけど……その手の甲は冷たくて、微かに震えてるような気がした。

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