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対面

××× 築30年は経っているだろう、年季の入った古いアパート。壁や手摺りなど、至る所の塗装が剥げ、薄汚れて錆が目立つ。 雨の湿気も手伝い、錆びた鉄の臭いがうっすらと鼻につき、余計に気が滅入る。 その階段を上がって最初の部屋──玄関のドアを開ければ、父の靴が綺麗に揃えてあった。 「……」 しん…と静まり返る室内。 天気のせいか。奥へ向かう程薄暗く、人の気配さえ感じない。 「……どうぞ、上がって」 玄関の電気を付け、靴を脱ぐ。 上がって直ぐ右側にはトイレ。左側には、壁に埋め込まれるような形で置かれた洗濯機と洗面台。その前を通り過ぎ左側に現れたのは、水回りがひと纏まりになった、キッチンとバスルーム。 部屋の奥に見えるのは、リビングと……父の部屋。 「………あれ、散らかって見えるけど。一応……僕の部屋なの」 リビングの奥にある、窓際とカラーボックスの隙間にある空間。そこに隠れるようにして畳まれた、シングル布団。僅か一畳程しかないそこが、唯一の居場所であり……この家の中で最も落ち着ける、僕の空間。 ……でも、あれが部屋なんていうにはお粗末すぎて。恥ずかしくて、樹さんの顔をまともに見られない。 「なんか、……ごめんなさい」 「……」 「……あ……ここに座って、待ってて下さい。寒いですよね。今お茶を煎れるので……」 「──実雨」 顔を伏せたままキッチンへ逃げようとする僕の手を、樹さんが強く掴んで引き止める。 「構わなくていいよ。……それより、実雨のお父さんと、話をさせて」 「……」 いつもと同じ口調。 穏やかで落ち着いた、樹さんの優しい声。 ……だけど、違う。 何処か冷ややかで、少しだけ怖い。 「………うん」 緊張して震える手。 父の部屋の前に立ち、手のひらを軽く擦り合わせる。大きく深呼吸をひとつし、意を決してノックをしようと、手を構えた時だった。 ──ガチャッ 突然、目の前のドアが半分程開かれる。 僕が居る時は、大概顔を出したりなんかしないのに。 「……」 一体、いつぶりだろう。 幼顔ながら、綺麗に整った顔立ち。綺麗な二重。僕と同じ位の背丈。細身の身体。いつから切ってないんだろう、後ろに無造作に束ねた髪。 形の良い瞳が嫌悪に満ち、鋭く僕を睨みつける。 それは、無断外泊した事か。一度も電話に出なかった事か。 ……それとも、勝手に人を家に招き入れたからか── 「………愛月(あき)……?」 強張る僕の背後に立った樹さんが、驚いたように父の名を洩らす。 その声に反応しドアを更に開け、視線を上に移した父が……その瞳を大きく見開く。 「………いつ、き……」

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