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答え

「……もしもの話をしても、現状は何一つ変わらないよ」 静かに。だけど芯のある真っ直ぐな声で樹さんが現実を突き付ける。 それに驚いたのか。父が顔から手を外し、怒でも憂でもない……ただ真っ直ぐで純粋な瞳を樹さんに向ける。 「………ごめんね、愛月(あき)。 こんな状況になっていたなんて、思いもしなかった。 ──確かに、愛月の言う通り、僕達が上手くいかなかったのは……東生のせいだったのかもしれない」 「……」 「あの日──電話で東生に呼び出された時、真奈美を泣かせるような事はするなって、予め東生に釘を刺されていたんだ。 待ち合わせの喫茶店には、当然、愛桜がいるものだと思っていた。……だから、まさか愛月がいるとは思いもしなくて。 姿を見た瞬間、動揺したよ。 それと同時に、東生の言葉の意味を悟った。僕が愛月に、まだ未練があるのを、東生に見透かされていたんだって……」 「……」 「愛月は愛桜と同棲していて、ゆくゆくは結婚するって聞かされていたし。これからの愛月の幸せと、皆との関係を思えば……ここで想いを断ち切って、さよならしなければいけないと思った」 「……」 樹さんの瞳が僅かに緩み、下に向けられる。 繋がれた手──その指先が、小さく震えていた。 「……だけどね。そんな簡単に割り切れるものじゃないよ。 真奈美と生きていく努力はした。でも、まだ愛月への気持ちが残っているのが伝わっていたんだろうね。 ……突然、彼女の方から、別れを告げられた」 「……」 「何もかも壊れて、失って……途方に暮れたよ。 その隙間を埋めるように、何人かと関係を持ったりもしたけど……上手くいかなかった。 一緒になった相手に、愛月を重ねて求めていた事に気付いてからは……もう、誰かで心を埋めるのは辞めようと決めたんだ」 伏せていた樹さんの瞳が、迷い無く真っ直ぐ父を見る。 「──そう、決意した後に出逢ったのが、実雨だよ」 「──!」 ……え…… 樹さんの横顔を見上げるふたつの瞳が、大きく見開かれていくのが自分でも解った。 「最初は戸惑ったよ。愛月によく似ていたからね。 ……でも、愛月の代わりじゃない。実雨自身に惹かれていって……愛おしく感じたんだ」 ……心が……震える…… 傷心から突然会いたいと言ってしまった、あの日──樹さんはそうじゃなかったんだ…… なのに僕が、樹さんを大空と重ねて求めてしまって……それを気に病んでしまったから…… だから樹さんは、僕の気を楽にさせようと、『お互いさま』って── 「……もう二度と、愛する人(実雨)の手を離したくない」 「──!」 いつの間にか、樹さんの指先の震えは止まり、力強くぎゅっと握られる。 「あの時の傷が癒えるのに、凄く時間が掛かったよ。……本当に、好きだったからね。 でも、今は、実雨を大切に思ってる。 ……色々あったけど、実雨と巡り会えて良かったと思ってる」 「……」 「ごめん、愛月。 ──あの時、愛月の気持ちを確かめられなくて」

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