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…ズリぃよ

「──そこまで俺を解ってて……ズリぃよ、樹──」 ボソリと小さく、嘆きにも似た声で父が吐き捨てる。 視線を横にずらした後、フイと顔を横に背ければ、樹さんが寂しそうな苦笑いを浮かべた。 「──それでももし、愛月が実雨の親として愛せないのだとしたら……僕が、愛月の分まで愛情を注ぐよ」 「……」 「もし親として、これ以上実雨を育てられないのなら…… その時は……実雨の全てを僕が担って、一緒に暮らしたいと思ってる」 「──!」 一緒に……って── ドクンッ…と、心臓が大きな鼓動を打つ。 合わせた手のひらに籠もっていく、熱気と湿り気。 しっかりと確かに握られたその手は、僕の全てとなって、輝かしい未来へと導いてくれるような気がした。 「………んだよ、それ……」 他所を向いたまま吐き捨てた父が、唇を尖らせる。 「結婚の許可を貰いに来た、娘の彼氏気取りじゃねーか……」 言いながらも、視線を此方に向けようとせず……眼の縁が赤くなりながらも、気丈に目尻を吊り上げる。 そこに涙を滲ませて。 「………うん。そのつもりで乗り込んで来たんだよ」 ストーブの熱のせいか。 いつの間にか、ピンと張りつめていた部屋の空気が、緩んで温くなっている。 だけど、まだきっと、外では雨は降り続いているんだろう…… 「……樹……」 父の唇が、小さく動く。 「……なんか、やっと会えたのがこんな形で……凄ぇショックなんだけど……」 瞬きひとつしない瞳から涙が零れ、ツゥ…と頬を掠めて落ちる。 「……でも、……ずっと抱えてきたものを全部、樹にぶつけたのに…… 俺から逃げずに、ちゃんと向き合ってくれたのは──嬉しかった……」 「………ん」 「樹がずっと、俺に惚れてて、忘れないでいてくれた事もな……」 「………ふふ、そうだね」 樹さんの返しに、父がやっと黒目を向ける。 吊り上がっていた瞳が緩み、二人の視線が柔らかくぶつかれば──二人の間に張られていた薄氷が、パリンと音をたてて砕け……きらきらとその破片が辺りに舞い散る。 その瞬間──二人は学生の頃に戻ったような表情になり、これまでの雰囲気が一瞬で変わる。 それは──僕が踏み込んじゃいけない、二人だけの世界(もの)。 「──でも……ごめんな…… 今はまだ、心ん中がぐちゃぐちゃしてて、……全然………」 「………うん。そうだよね。 僕が愛月でも、きっと同じように感じたと思うよ」 口元を震わせながら涙を流す父に、樹さんが柔らかな言葉で包み込む。

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