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Ⅴ
「小野井は、俺ですけど…」
「あぁ!そうなんですね!先程自己紹介もさせてもらったんですけど、営業部門の担当に配属されました。佐竹八生です。改めてよろしくお願いします」
ニコッと笑うその顔は、かっこいいとはまた違ってずいぶん可愛らしかった。
(にしてもすごい身長差だな…。仕方ないけど、羨ましい)
同じ男なのにな。と改めて見上げて感じる心の声を殺して、挨拶を交わす。
「小野井律です。今日からよろしく」
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「で、ここはこうして、データはここにあるから。あと、名刺のリストとも照らし合わせて…」
佐竹君の飲み込みはとても早かった。
教えてやってみせると完璧でパソコンもパワーポイントも使い慣れていたようだったので、好調に作業は進んでいった。
「初日でここまで出来るなんてすごいよ。佐竹君」
「ホントですか!ありがとうございます」
隣同士にくっついているデスクでそれぞれのパソコ前に座って仕事する俺らは、時折他愛無い会話もしていると午前の業務が終了する鐘が社内に鳴った。
「よし、とりあえず午前中はここまで。お昼休憩にしようか」
「はい!」
一旦デスク周りをサッと片付けて、俺は携帯と財布を持ち立ち上がる。
「あの、小野井さん!」
まだ椅子に座っている佐竹君が俺を少し見上げる形で話しかける。挨拶した時とは真逆の位置の目線で、黒い髪の中から見えた旋毛に目が移る。
思ったより、髪の毛長い…のかな。なんて考えながら返事する。
「どうした?」
「お昼ご飯って持ってきてなくて…会社から近いごはん屋さんかコンビニって何処ですかね?」
「あー…。ごはん屋さんは此処からちょっと歩かないと無くて、休憩の時間に余裕がある時しか行けないから基本コンビニになっちゃうけど。俺は今から買いに行くから、良かったら佐竹君も一緒に行く?」
「行きます!」
佐竹君が嬉しそうに返事をしてくれて、俺までなんだか笑ってしまう。
営業部に入ってくる後輩は少なくて俺の下は今はゼロだ。研修期間が終わると他の部門に異動する新人ばかりだった。
久しぶりの後輩に可愛がりたい衝動を抑える。
彼も財布と携帯を持ち、オフィスを一緒に出る。
一緒に歩いていて気づく事があった。彼は俺より脚が長くて一歩が大きい。だからか、どんどん自分だけ先に進まないように歩幅を合わせて隣を歩いてくれていた。革靴の音は不揃いだけど、キチンと隣同士に並んで歩んでいる。
「もうすぐ、桜が咲きますね」
大きく膨らむ桜の蕾を見て話す。
「ここの桜並木は綺麗だからなぁ」
「そうなんですね、満開の桜を見れるのが楽しみです」
(一緒に見たい)
なんて、小さく小さい思いが心の奥で芽生えた。
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