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ⅩⅩⅡ

「いいよ。見に行こう」  単に嬉しいとか、舞い上がるとか、そんな言葉で表せる感情じゃ無かった。胸の内から少しずつ少しずつ、何か満ちていく。佐竹八生という男によって、それは引っ張られて俺の体内に満タンになるまで溢れそうになるギリギリまでたっぷりと満たされていく。  帰りの方向とは違う道へ再び並んで歩き出す。  桜並木の広がるその道は、人は居らず閑散としていた。ただ、見上げれば視界に一面の桜が咲く。  光ること無い筈の花弁は、街灯に照らされる事で舞って、角度を変えながらキラキラと輝く。 「満開ですねぇ!」 「ホントに。毎年見てるけどここの桜並木は綺麗」  上を見上げてゆっくり歩く。  当たり前のように歩幅を合わせてくれる佐竹君は、心が踊り童心に戻っているかの様に笑っている。 「散ってしまう前にこうして一緒に見れて良かったです」 「そんな、別に俺とじゃなくてもいいんじゃない?」  そんな期待してしまいそうになる事、言わないで欲しい。 「そう…ですよね。すみません。付き合わせてしまって」  会社を出る時に眼鏡をまた、掛けた為表情が見えづらい。傷つけただろうか。嫌に思っただろうか…。  けど…。  俺は今日でキッパリ諦めるって決めたんだ。  叶いっこない恋は、二度としないんだ。  もう、さようなら。 「じゃ、佐竹君。明日からは正式な社員の一人としてよろしくね。お疲れ様」 「は、はい!お疲れ様です」  俺はくるりと佐竹君に背を向け片手を上げた後、歩き出した。振り返ることは決してせずにスピードも落とさず、ただ、ただ帰路に着くために歩いた。  何故だか、静かに涙を流しながら。

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