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第2話

 ……しかし、「笑顔が嘘くさい腹黒」と評判だった副会長様は、意外と親切で。  俺の泣いていた理由を聞くと、自分も最近失恋したばかりで傷心中だとこれまた意外なフレンドリーさをみせた。  副会長が誰に失恋したか、俺は知っていた。  たぶん、全校生徒みんな知っていただろう。  季節外れのΩの転校生が生徒会メンバーで逆ハーレムを築いていたのは、それはもう有名な話だったからだ。 『運命の相手だと、彼は私にそう言ったんです。無理して笑うことはないと…、笑いたいときに笑えと』  副会長は儚げに笑ってそう言ったが、肝心の転校生は他のαの番になり、もうこの学園にはいない。副会長は失恋したのだ。  しかし、やはり俺は――知っていた。  あの転校生は、副会長だけではなく、会長にも会計にも果ては保健医や担任や…学園の目ぼしいα全員に「運命の番」と云いまわっていたことを。  ちなみに俺の見立てでは、本命は生徒会長だった。  そして、会長様は表面的には構って見せていても、実のところまったく転校生を相手にしていなかった。他の生徒会役員も同様である。 (だけど、一人だけそれを信じてた人がいたんだな……)  まさかそれが学年主席の副会長だとは思わなかったけど。 (なんて…なんて…なんて…)  なんてチョロい人なんだ…!  生徒会のメンバーのほとんどはわかっていると思っていたのに、わかってない人がここに居た……。  しかも副会長である。  この人、腹黒で冷静なインテリキャラが売りじゃなかったのか…?  すっごい頭が切れるから生徒会長直々に副会長に指名したって聞いたのに、なんか俺の知ってる情報とかなり隔たりがあるんですけど?  後に、俺は会長から聞くことになる。 「あー、あいつなぁ…、他は完璧なんだけど、恋愛方面だけはからっかきしなんだよね。恋に恋する夢子ちゃんだから」  名字が夢川だからかな、と朗らかに会長様は笑っていらっしゃった。……でも、ほんのりその笑みには黒さが混じっていたのを俺は見逃さなかった。本当の腹黒様は会長様だった。会長、コワイ。  そんなこんなで、俺は副会長の失恋話から思わぬ人の思わぬチョロさを知り、衝撃を受けたのである。……自分の失恋のショックを忘れるほどに。  そもそも、転校生を生徒会に引き入れたのは、火種になりそうな不穏分子を監視下に置くためだったと思われる。  どうせあの抜け目のない生徒会長の指示だろう。  ちなみに俺の初恋の相手は、この生徒会長の毒牙にかかってしまった風紀委員長だ。純粋なあの人の未来が心配で、ダメもとでアタックしたが、「大切な人がいるから」と申し訳なさそうに謝られては諦めざるを得なかった。大切な人とはもちろん生徒会長の事である。会長め。俺たちの大事な委員長を幸せにしなければ絶対に許さん、と心に誓ったあの日、――俺は、夢川副会長…今の夢川社長に出会ったのだ。

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