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1.最初の距離(1)
「眠……」
五月という時期的なものもあるのだろうか。それとも、単に最近バイトを入れすぎているのからか。
何度も込み上げる欠伸を噛み殺しながら、俺は屋上へと続く階段を上った。
重いドアの開閉には、キィ、と金属の擦れる耳障りな音が伴った。案の定、鍵はかかっていない。
原則、生徒が私用目的で屋上を利用することは禁止されている。それはこの旧校舎も、つい数年ほど前に立てられたと言う新校舎においても同じことだ。
だがその実旧校舎側の施錠は緩く、その気になれば誰でも立ち入ることができる状態になっていた。
屋上に出ると、視線を巡らせながらゆっくり歩いた。
やがて給水塔の陰へと回る。上手い具合に、新校舎や体育館などからちょうど死角となる場所だった。
「――仲矢?」
そこには予想通りの先客がいた。
気配に振り返り、僅かに目を瞠ったのは名木先生だった。
「お前、授業は」
言われるのも無理はない。本来なら一時間目の授業を受けているはずの時間だ。
しかし俺は、悪びれるでもなく緩い笑みを浮かべて、さらりと答えた。
「サボリです」
「……堂々と言うな」
先生は双眸を細め、溜息をつく。
すっきりと通った鼻筋、涼しげな奥二重の目元が、それを隠すようにチラつく暗褐色の髪の隙間から覗いていた。
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