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1.最初の距離(5)
「瀬名の奥さん、若くて可愛いって噂ですけど。実際どうなんですか? 先生、会ったことあるんですよね?」
問いかけても、先生は何も答えなかった。ただ銜えている煙草だけが自然と短くなっていくばかり。先端で燻っている赤い点が、束の間明るくなることもない。
それでも、火が点いている限り、灰はじわじわと伸びていく。それがやがて危うく落ちそうに長くなっても、先生は固まったかのように動かなかった。
――ねぇ、先生。俺はそんなに意地悪ですか?
一見冷たく、いい加減に見られることも多いだろう先生。だけど根は真面目で優しくて、とても温かい人間(ひと)なんだってこと、ずっと見てきた俺じゃなくても、案外みんな知ってるよ。
喫煙者のマナーに乗っ取って、携帯灰皿だってちゃんといつも持ち歩いているでしょ。それをほら、そろそろ取り出さないと。取り出して、灰を受け止めて、何なら火も消した方が――。
先生をそんな風にさせているのが、自分だと知っていて、どこか他人事のように思う。
その時だった。
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