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1.最初の距離(10)

「お前の言った通り、……俺は瀬名先生が好きなんだ」  まるで俺の心中を察したかのように、先生は不意に呟いた。  その言葉にあっけなく制された。  はっきり拒絶されたと思った。そのくらいならと、冗談で済ませてくれる予感もあったのに。  いや、案外そうしなかったことが先生なりの誠意、優しさだったのかもしれない。 「そ……んなの」  俺は逃げたいように顔を背け、強がりにも似た空笑いをそこに刻んだ。 「そんなの、知ってますよ」  重ねて、半ば自分に言い聞かせるようにも言葉を継いだ。  急激に頭が冷えていく。  いったい、俺は何をしているんだろう。  もともと名木先生が瀬名を好きなことは百も承知だったわけで、それはこの期に及んで驚くことでも何でもない。  それこそ、そのことで今更俺が傷付くなんてあるわけないのに、 「先に言ったじゃないですか。俺は別に、無理に手に入れたいとは思っていないって」  どうしてだか胸の奥が今までになく締め付けられて、声が震える。  そんな自分が余りに不本意で、俺は逃げるように踵を返した。先生に背を向けて、誤魔化すように笑みを深めた。

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