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1.最初の距離(11)
「いいんです。俺は瀬名を好きな名木先生を好きになったんだから」
そして再度、はっきり告げる。そうすることで、同時に自分で自分に釘を刺した。
先生は何も言わなかった。
俺は密やかに深呼吸をして、静かに踏み出した。
「別に、ただ好きでいるくらいいいでしょ。現に先生だってそうしてるんだから」
屋上を離れようと歩き出した俺を後押しするように、追い風が吹きぬける。
大丈夫。最後は普段通りに振る舞えた。声も震えていなかった。
そのことに心底安堵して、俺は屋内へと続く重いドアを開けた。
――それにしても、なんでこうなったんだろ。
当初の予定とは随分違った結果になってしまった。だからと言って、別に後悔もしていないけれど。
何気なく、手の中に残った一本の煙草に目を向ける。俺とは違い、一度は確かに先生の唇に触れた煙草だ。
一応加減はしていたせいか、幸いどこも破れていなかった。目立って折れ曲がったような形跡も無い。
「まぁ、いいか」
正直、これが手に入っただけでも十分嬉しい。
俺はそれをポケットにしまうと、幾分気の抜けたような足取りで階段を下りて行った。
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