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2.変わらない距離(1)

 その日の六時間目は化学で、移動教室だった。  化学は担任――ここのところ特にいい印象を抱いていない瀬名の担当科目。  当然のように廊下を歩く足取りは重く、全く授業に出ようと言う気になれなかった。  筋違いなのは解かっている。だってこれに関しては、実際瀬名が何をしたわけでもないのだ。  早い話が単なる嫉妬。  そうは思っても、嫌なものは嫌だった。  ……つーか、今になってなんなの、俺。  先日の屋上での一件があったからと言って、俺と名木先生の関係は何も変わっていなかった。でもそれは名木先生と瀬名についても言えること。  なのに俺だけが、どこか空回りしているような気がしてならない。  年の功だか性質の違いだか知らないけど、名木先生の方はあんなにも今まで通りなのに。  ああもう、それもこれも、やっぱり全部瀬名の所為だ。瀬名が結婚したり子供を作ったりするから、そのたび嫌でも現実を突きつけられて、先生があんな風に胸を痛めてしまうのだ。  その結果、俺まで見るに堪えなくなって、このざまだ。  本来なら卒業までずっと保っていたはずの距離を越えて、先生の中に踏み込んでしまった。  そんなつもりなかったのに。  ――瀬名のヤツ、マジでどっか他のガッコ行かねぇかな。今すぐに。  思うだけ無駄だと解かっていても、思わずにはいられない。  現実から逃げたいように窓の外を見遣ると、そこにはまるで胸中を反映するかのような曇天が広がっていた。

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