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2.変わらない距離(3)

「なぁ、そういや瀬名の祝いの花の話あったじゃん」  化学の教科書を持ったまま、体育館へと続く渡り廊下に差し掛かると、脇へと設置された自販機の前で足を止めた。  そこで思い出したように加治が水を向けてくる。 「あー、一人五百円だろ。結構な額だよな、クラス全員の人数かけると」  できればあまり考えたくない話題だったが、無下にもできず、おざなりに頷く。 「そうそう。なのにそこに更に上乗せするつもりらしいぜ」 「上乗せ?」  お金を入れてボタンを押すと、まもなくガコン、と微糖のコーヒーが落ちてきた。それを片手に、俺は思わず瞬いた。 「そう」  加治は小さく肩をすくめ、次いで炭酸飲料のボタンを押した。 「え、だって……既に全員分で二万弱くらいにはなってるはずだろ。なのにまだ追加徴収するってことかよ」 「な。微妙な話だよな。だいたい金かけたからって喜ぶヤツじゃねぇじゃん、瀬名って。逆に本気で気持ちだけで十分っつータイプっての?」  そこは同感としか言いようがなく、俺は相槌を打つしかない。  その傍ら、手の中で軽く缶を放り投げたときだった。 「しかもさぁ、その追加分ってのを、生徒じゃなく、名木ちゃんに出してもらうっつーんだよな。それってちょっとどうなのって感じじゃね?」  落ちてきた缶を、取り落とさずに済んだのは奇跡かもしれない。 「……マジかよ」  俺は辛うじてそれを手のひらに受け止めると、呆然と呟いていた。

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