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2.変わらない距離(6)
想像以上に逸る気持ちを抑えて、給水塔の裏へと回る。
数日前と同じ場所に、先生はぽつんと立っていた。
「……なんだ、またお前か」
俺を一瞥し、先生は疎ましげに溜息をつく。
俺はあえてぬけぬけと答える。
「今日はバイトもないですしね。暇なんですよ」
すると先生は言葉もないとばかりに溜息を重ね、ポケットから煙草を取り出した。
「……どうでもいいが、ドアくらい静かに開閉しろ。人に見つかったらどうする、俺まで一緒に怒られるじゃないか」
「あのドア、どうやったって音はするでしょ」
「そんなことはない」
抜き取った白筒を銜え、端的に言った先生の視線が、フェンス越しの空へと戻る。
目の前には、いつ見ても大して変わり映えのしない見慣れた風景が広がっている。照り返す夕暮れの名残に、その双眸が眩しげに細められた。
「っていうか、怒られるなら俺よりむしろ先生の方でしょ。率先して規則を破ってるわけだし……しかも、煙草まで吸ってる」
努めて平然と歩を進め、先生の隣で足を止める。
隣とは言え、仮に手を伸ばしてもぎりぎり届かない程度の距離は空けている。それ以上近づかないのは、自分がその立場にないとわきまえているから。
「今日はまだ吸っていない」
返された言葉に視線を向けると、確かに口元の煙草にはまだ火が点いていなかった。
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