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2.変わらない距離(9)
先生は歩き出し、やがて屋上から姿を消した。
俺は凍りついたように動けず、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
特に好かれているとは思っていなかったけど、何となく嫌われていない自信はあった。それなのに、はっきり「嫌い」と言われてしまった。しかも「子供」だなんて。これでは引導を渡されたも同じだ。
そのくせ肝心なことは何も聞けなかった。ただ瀬名と何かあったんだろうことだけなら、顔を見れば分かるのに。俺が知りたかったのは、その内容(なかみ)の方だったのに。
「……あーもう、マジシャレになんねぇよ」
ぼやきながら、よろよろと目の前のフェンスを両手で掴む。力任せに強く握り込むと、関節に軋むような痛みが走った。
力なく巡らせた視線の先で、グランドの一部に明かりが灯る。野球部の練習が続いているせいだろう。
そう言えば加治はつい最近、入部して間もないマネージャーに告白されたと言っていた。互いのことを何も知らないまま、付き合うつもりはないとも言っていたけれど。
「……なんかムカつく」
そんなまるで関係ないことにまで、いまは無性に腹が立つ。
それこそ完全に八つ当たりだと自覚した上で、俺は掴んでいたフェンスを突き放した。
耳障りな金属音が響く。先刻先生が立てたものよりずっと激しく、不快な音だった。
「バッカじゃねぇの」
遅れて我に返ると、自分で自分に吐き捨てた。
そうして俺は、ようやく金縛りが解けたように屋上を後にした。
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