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3.仮初めの距離(2)

「まぁ、お前あんだけサボってもそんな成績悪くねぇしさ。そこまで怒られることはねぇよ」 「それ慰めてんのか」 「いや、気休め?」  別れ際、そうあっさり無表情で言い切った加治の尻を、俺は無言で蹴飛ばした。  言うほど痛くもないくせに、わざとらしい悲鳴を上げた男をついでに侮蔑を込めた眼差しで見る。  それに加治は「無茶すんな」と抗議していたが、最後には「まぁ頑張れよ」と無責任に笑ってグランドの方へと消えていった。 「あーもう、かったりぃな……」  加治をどついたことで多少の気晴らしはできても、依然として足取りは重い。  逃避したいように見上げた窓外の空まで、何やら分厚い雲に覆われようとしている。下校するときは雨かもしれないと思えば、いよいよ気分は下降する。  それでも逃げ出すことができないのは、詰まる所俺だって卒業くらいは無難にしたいと思っているから――。 「マジだりぃ……」  最早口癖のようにぼやきながらも、俺は一路化学準備室に向かった。 「まぁ、何を言われるかはだいたい想像がついているだろうが――」 「……はぁ、それはまぁ……」  軽くノックをした後、ドアを開けると、すぐに「入りなさい」と促された。  俺は大人しくそれに応じ、常よりも真摯な面持ちで待っていた瀬名の前で足を止めた。部屋にいたのは瀬名一人だけだった。  学校で個人的な呼び出しを受けたのは、中学の頃、たまたまクラスメイトが持っていた煙草をふざけて咥えていたのを見つかって以来のことだ。  ちなみにその時の教師は本当に感じが悪く、それこそ嫌味でしかないような説教を、これでもかと言うくらいの上から目線で何時間もするようなヤツだった。  さすがに瀬名がそんなヤツと同じでないことくらい解っているが、そうかと言って面倒だと思う気持ちは変わらない。  俺は自然と落ちる視線をそのままに、瀬名の言葉を待った。

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