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3.仮初めの距離(3)

「早速だが仲矢、お前は最近サボりすぎだ」 「……え」  俺は思わず瞬いて、ゆっくり顔を上げた。 『ではなぜここに呼ばれたか言ってみなさい』  いくら瀬名でも、それくらいの小言――前置きはすると思っていた。  だがその予想は見事に外れ、瀬名はいきなり本題に入った。 (さすが体育会系)  知ってはいたが、不謹慎にも呆気にとられる。  まぁ、その方がこっちも話が早くて助かるけど。   「聞けば他の授業もサボってるそうじゃないか」  アンタの授業ほどじゃねぇけどな。  心の中で悪態を吐きながらも、何だか気の抜けたような心地になった。  瀬名は俺の目を真っ直ぐ見据えると、きもち表情を和らげて言った。 「まぁ……その、贔屓をするわけじゃないが、お前は素行のわりに成績は悪くない。だから出来れば頑張ってほしいんだよ、先生は。もし夢があるならそれに一生懸命になるのもいいし、まだこれといった夢がないなら、進学してゆっくり考えるのも一つの手だろう」  次いで引き出しから取り出した数枚の紙束を、机の上でトントンと整える。 「だけどな、どっちにしても高校は卒業したいだろう? 幸い登校は毎日ちゃんとしてるんだ。出席日数は足りている。が、さすがにこのままでは先生もフォローしきれない」 「……で、代わりに課題(これ)をして来いってことですか」 「そうだ。今週中にこれを全部やって提出しなさい。それで何とかしてやるから」  そうして差し出された紙面には、小テスト形式やらレポート形式やらの化学の問題が、ところ狭しと並んでいた。

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