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3.仮初めの距離(6)
俺は冷たいコンクリートの壁に背を凭れかけ、両膝を立てた上にカバンを置いた。そこに引っ張り出した課題のプリントを押さえつけ、傍らの床に直接教科書を開く。
願望はどうあれ、少しでも集中したいから屋上を選んだというのも嘘ではないので、とりあえずやるべきことはやることにする。
さすがに俺だって卒業できないのは本意じゃないし……。
そうしてしばらくは、確かに思惑通り順調に進んだ。
「つっても……やっぱ分かんねぇもんは分かんねぇな」
けれどもその数十分後、七枚ほどあるプリントのうち、三枚目に入ったところでどうしても先に進めなくなってしまった。
指先に筆記具を挟んだまま、いくら教科書をめくってみても、どこを見ればいいのかさえ分からない。
一応引っ張り出したノートも覗いてみたが、そもそもその周辺の内容からして見事なまでにすっぽ抜けているのだ。当然答えが見つかるはずもない。
「……なんなんだよ、分かんねーとこは白紙でいいのか……?」
それとも瀬名に直接質問しろってことか。
……まさかあの笑顔はそう言う意味もあったって言うんじゃねぇよな。いつでも好きな時に来なさい、どんな些細なことでも歓迎するから、とかって――。
あながち有り得なくもない気がするから余計に笑えない。
「冗談じゃねぇ……」
俺は片手で額を押さえ、認めたくないように呟いた。
その瞬間(とき)だった。
「なんだ、珍しいな」
突然頭上――僅か後方から降ってきた声に、俺はぴたりと動きを止めた。
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