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3.仮初めの距離(12)*

「先生……?」  探るように呼びかけると、先生は視線を落とし、苦しげに口元を歪めた。 「これで本当に縋ったら……、それこそ俺は、本当に……」 「……本当に?」 「ろくでもない教師になるじゃないか……」  どうにか搾り出したようなその声は、掠れていまにも消え入りそうだった。  俺は思わず絶句した。  今までになく鼓動がどくんと大きく跳ねた。 「き……気にするとこ、そこ……?」 「…っ……」  居た堪れないように顔を背けた先生の目端が、赤く染まっていた。  ……やばい。  このひと、可愛い――…。 「いや、って言うか、ならない、ならないから!」  俺は感極まったみたいに強く首を振り、先生の身体を引き寄せた。  衝動のまま抱きすくめ、次には一方的に口付ける。  稚拙な子供のように唇を押し付けると、仄かな苦味とそれを凌駕する甘さが鼻に抜けた。 「――っ、ぅ……んっ」  啄むようなキスを何度かしたあと、隙を突くように顎を捉えた指に力を込めて、幾分強引に歯列を割らせる。  先生は一瞬瞠目したものの、俺が舌を滑り込ませると、諦めたように目を伏せた。 「…んんっ……、ぅ……っ」  萎縮しがちな先生の舌を絡めとり、何度も執拗に擦り合わせる。唾液が溢れるのも構わず口内を貪り、息つく間もないくらい荒々しく先生を求めた。  どんなに苦しげに先生が喉を鳴らしても、角度を深めるばかりで解放なんてしてやらない。 「……っ、ふ」  濡れた口許を舐めながら、顎先に添えていた手を首筋へと滑らせる。  先生のシャツのボタンはいつも二つまでは外されていたから、労せずとも鎖骨まではすぐに触れることができた。その窪みを確かめるように指で辿り、続けざまに残りのボタンを外していく。 「はっ……ぁ、仲、矢……場所、を……」 「大丈夫でしょ……こんな天気だし、きっと誰も気づかない。ここにいればドアだって開けられないし」 「そ、んな…っ……」  日没の時刻はとうに過ぎていて、その分昼間に比べると気温も随分下がっていた。  そのせいだろうか、外気に晒された先生の肌はざわりと総毛立ち、まだろくに触れてもいないのに、シャツに隠れていた胸の突起も既に尖り始めていた。 「っ、あ……っ!」  合わせから差し入れた手で直接それを摘みあげると、先生は驚いたように身を竦ませた。

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