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3.仮初めの距離(14)*

「……先生って、いつから瀬名のこと好きなの」  問いを重ねると、先生はやはり沈黙したが、ややあって「お前くらいの頃からだ」と静かに教えてくれた。  そんなに前から……?  今度は俺が言葉をなくす番だった。 「先生って、馬鹿だよね……」  普段は結構器用なくせに、こんなときばかり不器用で。  そこまで一途に想い続けて、一方的に操まで立てて、それで何かいいことあった?  俺なんて先生を好きだと言いながら、普通に遊んでたんですよ。どうせ届かないんだからって。  なのに先生は、同じように成就を諦めながらも、ちゃんと気持ちを貫いていたんですね。  ――本当に、なんて幸せな男だろうと思う。羨ましくて仕方ない。そしてそれ以上に妬ましくてたまらない。ここまで先生に想われている瀬名が。瀬名広明が。  胸の奥が締め付けられる。切なく疼くその痛みに、俺は隠れたいように先生の襟元へと顔を埋めた。 「……仲、矢……なに、どうした」 「別に、なんでもないです」  俺は小さく首を振り、 「ああ……初めての相手は、面倒……か」 「うわっ、ホントに馬鹿だ。先生ってそんな馬鹿でもやっていけるんですね」  込み上げた涙を誤魔化すよう悪態を吐(つ)いた。 「面倒とか……思うなら最初から手ぇ出さないですよ」  それからゆるりと頭を擡げ、組み敷いた先生の顔を上からじっと見下ろした。  改めて近くで見ると、こんなに綺麗な人だったかと思う。  目元にかかっていた前髪を柔らかく払うと、見上げてくる双眸は想像よりずっと澄んでいた。  俺は宥めるように先生の頬を撫で、声無く少し笑って見せた。

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