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3.仮初めの距離(18)*

「動いても、大丈夫ですか、先生……」 「あ……ぅ、…っ……」  まともな返答などできないと知っていながら、俺は敢えて問いかける。  先生の顔を覗き込み、目元を縁取る涙を唇で拭う。  試すように少しだけ身体を揺すってみたら、それだけで申し訳程度に敷いてある白いシャツの上を、先生の肩がずり上がった。 「……っ、だめだ。先生、身体起こすよ。背中に傷がつく」 「えっ……、あ……っ」  言うが早いか、俺は先生の身体をを引き起こす。  下肢の上にその腰を落とさせて、身体ごと強く抱き込むと、束の間浅くなっていた繋がりが、また一気に深くなる。 「や……っ、あぁ……!」  先生の背筋がしなやかに伸びる。困惑と驚嘆の入り混じったような嬌声が、かえって甘く耳に響いた。  頭の芯がじんと熱を持った。背筋にぞくぞくするような痺れが走る。どうしようもなく煽られる。 「先生でも、そう言う声出すんです、ねっ……」  堪らず、腰を突き上げる。いっそう押さえ込むように、背に回した腕に力を込めた。 「ぁあっ……、そ……、そん、なっ……」 「そんな……?」 「深……っ、ぁ、やめ……っ」  身を苛む苦痛から、逃げ出したいのにそれもできなくて、先生は縋るように俺の首にしがみ付いた。  袖だけ残されていたシャツは汗ばんで纏いつき、その様相がことさら艶かしく映る。 「……そんな煽んないでよ」  先生の熱い吐息が耳を掠める。俺は苦いように瞳を眇めた。

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