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3.仮初めの距離(19)*

「先生、……ねぇ、まだ痛い……?」  一旦動きを止めて、間近の髪にキスをする。  声を潜めて尋ねると、先生は俺の肩口に顔を押し付けたまま、ゆるゆると首を振った。汗ばむ俺の肌の上を、擽るように毛先が滑る。  夢みたいな距離だと思う。ともすれば夢かもしれないと錯覚しそうになる。 「先生――…」  仮初めの距離だとは分かっている。近づいたのは身体だけだと理解している。  でも、例えそうだとしても、いま腕の中に先生がいることには違いなく、胸がいっぱいになるのを止められない。 「ふ……っぁ、……ぁ、う……っ」  下肢を弾ませるたび、先生は嗚咽のような声を漏らす。  ここまで来てなお、どこか理性を手放しきれないようなのが酷く先生らしいと思う。  だがその一方で、俺を包み込む先生の身体は次第に馴染み、柔らかく蠕動を始めている。 「先生……、どうなの、気持ちいいの……?」  搾り出すように言いながら、押し上げれば先生の身体が過剰なほどに反応する場所を、執拗に擦り立てた。  一度は萎えかけた先生の熱も、いつしか硬度を取り戻している。それどころか、先端から溢れる雫は早くも白みがかり、先生自身の腹部だけでなく、俺のシャツの裾までしとどに濡らしていた。  俺は片手を隙間に差し入れ、今にも達してしまいそうなそれを手の中に握り込んだ。 「あ、待っ……、い、いま触られたら……っ」 「触られたら、なんですか……?」  制止の言葉も聞かず、追い立てるように腕を動かす。同時に腰を突き立てて、浅く深く中を穿つ。粘液が泡立つ卑猥な音が、一段と高くなった。 「も……、もう、だめだ……よせ…っ……、ぁ…、っ…――!」  直後、先生の腰が堰を切ったように大きく震えた。  俺の頭を、唯一の拠り所のように掻き抱いて、次には熱い飛沫を迸らせる。内側では絡みつく襞が引き攣ったように収斂し、俺の熱を激しく締め付けてきた。 「ちょ……、俺も、もうムリ…っ……」  熱すぎる熱は簡単に飛び火する。  俺は急くように抽挿する速度を上げた。繋がりが最深に達してもくどいくらいに腰を押し付け、先生の身体を揺さぶり続ける。  そして一際先生を抱く腕に力を込めると、後は数秒も持たないうちに最奥へと吐精していた。

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