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4.守りたい距離(1)
「……なぁ、仲矢。お前いま、煙草吸ってねぇよな」
午後のショートホームルームを前にして、そう耳打ちしてきたのは加治だった。
翌週の月曜日のことだ。
「吸ってねぇけど。……なんで?」
俺は怪訝に眉を潜めて問い返す。
そもそも俺が煙草を吸っているかどうかなんて、加治も知っているはずだ。それをどうして、わざわざ念を押すように言ってくるのか――。
その答えは間も無く知らされた。
「皆、机の上にカバンを出しなさい」
加治が答えるより先に、瀬名が教室に入ってきた。瀬名は教卓の前に立ち、一度申し訳なさそうに頭を下げてから、
「これから所持品の確認をします」
と、はっきり宣言した。
所持品の確認?
持ち物検査?
ああ、それで煙草か……!
合点がいったのをきっかけに、ちらりと横目に加治を見る。加治は「そういうこと」と言うように肩をすくめた。
実際、現在の俺に喫煙の習慣はない。
昔、中学の頃に粋がって手を出した時だって、結局数ヶ月と持たず止めてしまった。そしてそれは加治も同様で、寧ろそれがあったからこその確認だったのかもしれない。
「先生も今朝初めて聞いたところなんだが、何でも旧校舎の屋上で煙草の吸殻が見つかったんだそうだ。皆も知っているだろうが、屋上(あそこ)は通常立ち入り禁止になっている。――が、まぁ立ち入ること自体はそう難しいことでもない。実は先生も、昔はそう言うことをよくやっていたしな。先生たちの目を盗んで」
教卓に両手をついて、瀬名はきわめて真摯な面持ちで言う。そのくせ内容によっては一転、声を潜めたりして、巧みに生徒の注意を引いている。
真面目な話をしていると言うのに、どこか聞き手の笑いを誘う。瀬名の得意な手法だった。
しかし、俺はそれに付き合って笑っている場合じゃない。
「だが、十代のうちに吸う煙草は美味しくないぞ。身長も止まって男子は女子にモテなくなるし……いや、そんな話はともかくだ。一応、いつからあった吸殻なのかはよく分からないらしいんだが、どうも雨に晒された跡があるとのことだから、少なくとも昨日今日捨てられたもの、と言うわけではないんだろう。ここ最近で最後に雨が降ったのは、先週の中頃だったからな」
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