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4.守りたい距離(2)

 ――屋上、煙草……、……そして雨。  心の中で呟くと、嫌でも思い浮かぶのは名木先生の姿だった。  もちろん他の生徒の仕業だと言う可能性もある。しかし、やはり俺にはどう聞いてもあの雨の日のことだとしか思えなかった。  だって名木先生は、あの日も確かに煙草を吸っていた。  だけどあの人はいつも欠かさず携帯灰皿を持ち歩いているし、喫煙した際は必ずそれを利用していることを俺は知っている。  そうかと言って、よくよく考えれば、あの時最初に口にしてた煙草がどうなったのかまで俺は知らない。  俺が言った言葉のせいで、先生が口元から落としてしまった一本の煙草――あれは結局どうなったっけ?  コンクリートに落ちたと同時、火種は飛んでいたかもしれない。そうでなくとも、後の降雨で火は消えていたはずだ。そうなると余計、暗くなってから探し出すのは難しいだろうとも思う。  でも、それでもいつもの先生なら、そこで諦めて放置、なんてことはしない気がする。  もともと屋上で見つけた吸殻は、自分の物でなくとも全て内密に片付けるような先生だ。例えその時見つからなくても、懐中電灯を持ってくるなり何なりして、意地でも回収する、くらいのことをやっていても不思議はない。  ――そう、いつもの名木先生なら。  俺は悶々と思案して、結果辿り着いた一つの可能性にはっとした。  まさか、それができなくなるくらい動揺してた、とか……?  あれで?  普段、普通にやっていることが、そっくりすっぽ抜けるくらいに……? 「――…ぃ、……おい、仲矢!」  気がつけば周囲の喧騒などまるで聞こえなくなっていて、横から袖を引っ張られ、はっきり名を呼ばれたことでようやく我に返った。

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