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4.守りたい距離(3)

 緩く頭を振り、声のした方に顔を向けると、続けざまに加治が言う。 「大丈夫なんだろうな、お前」 「何が」 「余計なもん持ってねぇんだろうなって言ってんの」  加治は焦れたように顔を顰め、潜めた声で早口に続けた。 「もうすぐ回ってくんだろ、お前の番」  目線で促され、さり気なく教室内を一望する。加治の言うように、瀬名の姿は早くも残り一列のところまで迫っていた。 「マジ何も持ってねぇんだろうな」  同じ質問を何度も向けられるのは、俺がはっきり答えないからだろうが、どっちにしてもいい加減鬱陶しくなってきた俺は、「ねぇよ」とすげなく言いかけて、 「あ……」  そこでふと口を噤んだ。 「何だよ」  怪訝に眉を潜めた加治の前で、俺は自分のカバンに目を遣った。  そうだ、俺のペンケースにはいまも名木先生の煙草が入っている。  俺が初めて、先生へと真っ直ぐ差し伸べた手で、その唇から奪った煙草が。  俺はそれを、未だに持っていたのだ。直接肌を重ねてなお、どうしても手放すことができなくて――。

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