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4.守りたい距離(5)
そもそもそれなりの高校で、煙草の吸殻がちょっと見つかったくらい、どうってことないじゃないか。
思っても口に出さないのは先生が怖いからでなく、単に色々面倒だから。
一応それなりとは言え、就職率よりは進学率の方が高い学校だ。表立って問題になれば教師たちが黙殺できないのも分かる。
いわゆる世間体のため、というのもあるだろう。寧ろ、それが大半かもしれない。
「わざわざあんな風に言わなくても……先生は何も、さらし者にするつもりは無かったんだぞ」
俺が呼ばれたのは職員室だけでなく、その後は化学準備室にも来るよう指示された。何でも、担任だからこそ言っておきたいことがあるのだとか。
幸か不幸か、その日は名木先生が出張でいなかった。それを俺は幸いととった。だって名木先生がいたら、絶対にこの結果は得られなかったはずだから。
「大体、本当にお前なのか? 職員室でも一切弁解しなかったし……普通少しくらい言い訳するだろう」
「何てですか?」
「いや、それは……」
先日と同じように、瀬名は椅子に座り、俺はその正面に立っていた。
「例えば魔が差しました、とかな」
「先生、それは言い訳にはならないと思います」
あっさり言い返すと、瀬名は罰が悪いようにぽりぽりと頭を掻いた。
どうやら瀬名は、この期に及んで俺のフォローをしたかったらしい。
相変わらず、そう言う点においては本当にまめな男だ。
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