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4.守りたい距離(8)
「つーか、バイトも禁止って……」
火曜日からの一週間だから、翌週も月曜までは登校できない。俺は停学となった初日から、早速暇を持て余していた。
どうせ休みならと、励むつもりでいたバイトも禁止されてしまったし、昼間遊びに出ようにも独りではやはり味気ない。
結果、俺は大人しく自宅に引きこもるしかなく、
「なんだよ、もっと暗い顔してんのかと思った」
翌日、すっかり日も暮れた頃になって、加治が家に来たときにも寝起きさながらの格好だった。
「案外元気そうじゃん」
加治は俺を見るなりそう言って、無遠慮に部屋へと上がり込む。
その姿は、いかにも部活帰りという様相だった。
一応練習着(ユニフォーム)から制服に着替えてはいたものの、汗に張り付いた砂埃までは拭いきれていない。
それでもなんら気にする様子もなく、ベッドに座る俺の前へとどっかり腰を下ろした。
「きたねぇな。せめてシャワーくらい浴びて来いよ」
「そんな暇ねぇよ、そうじゃなくても練習時間いっつもオーバーしてんのに」
難癖をつけるように言うと、加治は確かめるように胸元のシャツを弾いた。
案の定、微かな砂塵が舞い上がり、思わず二人揃って「うわっ」と声をあげる。
「――で、用件はなんだよ。何か用があったから来たんだろ」
咄嗟に逃げるように上体を引いていた俺は、そのまま背後に両手をついた。気を取り直すように一つ吐息して、改めて加治の顔を見る。
「ああ、そうそう。お前に渡すものがあって」
間も無く目が合えば、加治は思い出したように自分のカバンを開けた。
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