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4.守りたい距離(9)
「渡すもの? ……まさかまた課題か?」
「あー、そういやお前、頑張って課題やったの、全部無駄になったんだよな。ご愁傷様」
うるせぇよ、と短く返せば、加治はおかしいように笑う。
「まぁ、残念ながら課題じゃねぇよ」
勿体つけるように言いながら、カバンに突っ込んだ手をごそごそと動かす。ややしてその手が取り出したのは、一通の真っ白な封書だった。
「なんだよ、これ」
差し出されたそれに目を落とし、俺は僅かに眉を顰める。
「いいから、中、見てみ」
身を起こし、それを受け取る。
表も裏も、真っ白だった。俺宛てだと言うわりに、名前が記入されているわけでもない。ただ、持ってみると少し厚みが感じられた。
「おいおい、潰すなよ」
「だからなんだよ」
怪訝に吐き捨てながらも、言われたからには慎重に封を切る。指先でそっと口を開き、幾分怯むような心地で中を見た。
次の瞬間、俺は信じがたいように目を瞠った。
「こ――…」
驚きの余り、言葉が続かなかった。
それを見た加治が、俺の手元を指差して言う。
「本当はダメだけど、内緒で返してやるってさ」
俺は他方の手の上に封筒を傾けた。すると微かに中身が滑る音がして、次にはトン、とその端が手のひらに触れる。
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