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4.守りたい距離(11)
「いつから気づいてたんだよ」
渋々ながらも認めると、加治は一瞬「なにが?」という顔をしながらも、
「あー、それは憶えてねぇけど、そんな最近ってわけでもねぇよ」
「……そうかよ」
「まぁ、だてに付き合い長くねぇからな」
すぐに口元を緩めて笑った。がっくりと項垂れた俺の肩を、とりなすようにぽんぽんと叩きながら。
「あ、で、お前が素直に認めたら、今日教えてやるつもりだったことがもうひとつ」
「なんだよ。もったいつけやがって」
その手を撥ね付けるように顔を上げると、
「その名木ちゃんだけどな、どうも辞表出したみたいなんだよ」
「……は? …辞……?」
先ほどまでとは打って変わって、加治は深刻そうに頷いた。
俺はまた言葉を失くす。加治の声は確かに耳に届いたのに、その言葉の意味がすぐには理解できなかった。
「え……何、辞表……? 名木先生が?」
遅れて繋がった思考回路に、不覚にも声が上擦った。
「そう、でもとりあえずいまは瀬名が預かる形で止まってる。名木ちゃんが筋を通す人で良かったっつーか。だから、本当に名木ちゃんが辞めるかどうかは、まだ分かんねぇけど」
「筋を通すって……」
同じクラスの、担任と副担任の関係だから?
言わば直属の上司とも言える間柄だから?
誰が?
名木先生と、瀬名が。
違う。きっとそれだけじゃないはずだ。
名木先生が瀬名に最初に伝えたのはきっと――。
「実はさぁ、俺も今日、お前と同じで課題出されたんだよ。ほら、結構お前と一緒に化学サボってたじゃん。その埋め合わせだとかなんとかって」
加治の声に、我に返った。たちまち現実に色が戻る。
そうだ、いまはそこに拘っている場合じゃない。俺は気持ちを切り替えるように居住まいを正した。
「それで放課後、化学準備室に行ったんだけど……俺が着いたときにはもう名木ちゃん来ててさ。それでちょっと入るの躊躇してたら、たまたまそんな話が聞こえてきちゃって」
「……そんな話って、自分が学校辞めますって話?」
問い返すと、加治は「そう」と頷いた。
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