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4.守りたい距離(12)
「まぁ正確には、そもそも屋上で見つかった吸殻は自分のものだから、その責任なら自分が取りますって感じだったんだけど。そうすればお前の濡れ衣も晴れるし、処分だって撤回してもらえるだろうからって。……でも」
「でも?」
「瀬名が……それをなかなか認めようとしなかったんだよ」
俺は小さく瞬いた。
「は、意外」
「だろ?」
やっぱそう思うよな、と加治が小さく首を捻る。
「まぁ、最終的には、名木ちゃんの意向に添う形になりそうな気配だったけど……」
「……気配だった、って。続きは?」
その言い回しに微妙な違和感を覚え、俺は僅かに目を細める。問い詰めるように低く呟くと、加治は「あー」と言い淀むような声を漏らし、
「そこでさぁ、横田に名前呼ばれたんだよ。加治君、そんなとこで何してるのーって」
ばつが悪いように視線を逸らした。
「………」
横田と加治はクラスでもそこそこ仲がいい。俺が瀬名の子供の話をいち早く聞けたのだって、元はと言えばそのおかげだ。
そうでなくとも、知り合いが何をするでもなく廊下に突っ立っていれば、誰だって不思議に思うだろう。俺が横田の立場でも、やっぱり声をかけていたかもしれない。
だからって、よりにもよってそのタイミングかよ。
俺は「ねぇわ」と力無く首を振り、そのままベッドの上へと横向きに倒れ込んだ。
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