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5.近くて遠い距離(1)

 正直住所だけなら、俺でもちょっと調べれば分かったはずだ。  かと言って自分だけでそこまで頭が回ったかと言えば答えは否で、仮に思い至ったとしても、こうして背中を押されなければ、踏み出すこともできなかったのではないかと思う。  そう言う意味では、本当に感謝していた。他でもない、加治が俺の悪友(親友)でいてくれたことに。 「え、こっからローカル線かよ」  加治が帰って行った後、三十分もしないうちに俺は家を飛び出していた。  加治のくれたメモを片手に、最寄の駅から電車に乗り込み、指示通りに降りた駅で時刻表を確認する。 「マジで?」  思わず声が出てしまったのは、予想以上にその本数が少なかったから。  一時間に三本あれば多い方で、少ない時間帯にはそれこそ一本もなかったりする。帰りの時刻を思えば、より急がなければならない。  俺は路線の確認もそこそこに、閉まりかけたドアの隙間へと滑り込み、そこでようやく息をついた。  後は目的の駅まで一直線。先刻携帯で調べたところによると、最寄り駅からは何とか歩いていけそうな距離だった。  それを信じて、俺はそこから数駅過ぎたところで電車を降りた。 「うわ、なんか暗い……」  自宅の周辺に比べると、駅付近からしてかなり薄暗かった。  辺りには店らしい店もなく、道を歩けど街灯の数も一向に増えない。どころか、寧ろ減っているような気さえする。  それでも俺は、時折壁や電柱に記されている住所を頼りに、一路目的地を目指した。  そうして、十五分ほど歩いただろうか。携帯に表示された地図によると、そろそろ家の一角くらいは見えてきても良い頃合だった。

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