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5.近くて遠い距離(2)

「何だ、あれ」  改めて見渡した視線の先で、ふと何かがうごめいた。 「野良犬か……?」  まさか野犬だとか言わないだろうな。  俺は一応足を止め、様子を窺ってみた。 「なんだ、人間じゃねぇかよ」  じっと目を凝らすと、それはすぐに判断できた。  その人は、どうやら道路脇の溝に何かを落としてしまったらしく、手元もろくに見えない暗がりの中、幾度かそれを持ち上げようとしては、失敗に終わっているようだった。 「あの、どうかしたんですか」  丁度街灯と街灯の間に位置していた所為で、周囲は結構な暗さだった。  それでも近づくにつれ、何が起こっているかの詳細もちゃんと分かり、 「ああ、自転車……ちょっと代わってください、俺やりますよ」 「まぁ、ごめんね。有難うね」  そう言って柔らかく頭を下げた相手が、優しそうな年配の女性であることもすぐに知れた。  俺は手に持っていた携帯とメモをジーンズのバックポケットに突っ込むと、側溝にはまり、ペダルがひっかかって抜けにくくなっていた自転車を、どうにか路上へと引き上げた。 「この辺、暗いですよね。せめてもう少し街灯があったら……」 「えぇ、そうね。……でも、慣れてしまえば案外大丈夫なのよ」 「そうですか……」  全くそうは見えなかったですけど。と、咄嗟に口をつきそうになった言葉はもちろん飲み込んで、俺は再びポケットから携帯を取り出した。

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