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5.近くて遠い距離(4)
からからと、自転車を押していたのは俺だった。その隣には、件の年配女性。
俺が名木先生の生徒だと話すと、彼女は「まぁ、よく来てくれたわね」と笑みを深め、早速道案内をしてくれた。彼女もまた、丁度家に帰るところだったらしい。
道すがら、彼女は「瑞希の祖母です。私は名木あき子と言います」と丁寧に教えてくれた。
「ほら、あそこよ」
携帯のナビは間違っていなかったらしく、あき子さんが示した先はもう目と鼻の先だった。
手前に三階建ての家があるので隠れ気味にはなっていたが、よく見れば既に目に入る位置に建っていた古い平屋が名木先生の家だった。
庭先の車庫には、何度か学校で目にしたことのある先生の車がとまっていた。
「さぁ、どうぞ」
「ここが、名木先生の……」
思ったよりずっと大きな家だった。ほとんどが砂地とは言え、庭も広い。
門扉は無く、囲いの石壁が途切れた部分から敷地内に入る。するとまだ距離のある玄関の引き戸が、突然ガラガラと音を立てて開かれた。
「ばあちゃん……この時間に出かけるなら、俺が車を出すからっていつも言って――」
軒下の電灯には、先んじて明かりが灯されていた。
おかげで、そう言って出てきた相手が誰なのか、俺にもすぐに判断がついた。
「え……、な、かや……?」
「こんばんは、先生」
俺は驚きの余り立ち尽くした先生に、小さく頭を下げて見せた。
不意打ちとも言える対面だったから、緊張する暇はあまりなかった。
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