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5.近くて遠い距離(7)

「もう正式な処分は下された後だから、今更それを覆すほうが学校にとっては体裁が悪い。  それに今回はどうしても仲矢(本人)がそうしたいと望んだようなもので、自分もそれを許してしまった。  だからすまないが、ここは仲矢の気持ちを酌んでやるということで、沈黙を保って欲しい。償いたいなら、方法はいくらでもある――」 「……」 「そう、瀬名先生は言っていた」  先生は淡々と言葉を続けた。  依然として態度にも変化は見られない。  俺はその真意を探ろうと、ますます先生を注視した。訝しげに眉根が寄る。膝の上で握っていた手に、知らず力が入っていた。  実際、瀬名が反対したという話は加治から聞いて知っていた。  だけど、その上で先生がどう思ったかまで俺は知らない。だからわざわざここまで来たのだ。その答えを先生の口から聞くために。  ――場合によっては、俺の本意もぶつけるつもりで。 「でも、普段の広明さんなら、あんなことは言わない。それこそ学校の体裁なんて二の次だ。  あの人はいつも真っ直ぐで、間違ったことが嫌いで、自分に正直な人なんだ。――だけど、それ以上に優しいから、お前の志を守るために、あんなことを」  広明さん……そしてあの人。  先生の何気ない言葉の欠片が、胸の奥にちくちくと突き刺さる。 「全部俺が悪いんだ。広明さんにあんな風に言わせてしまったのも、元はと言えば俺が原因で」  先生の手は、灰皿に置かれたままだった。

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