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5.近くて遠い距離(10)

「生徒思いですね。名木先生は」  半分は皮肉だった。でも、残りの半分は本音だ。  多少解かり辛くはあるが、名木先生だって本当は瀬名に負けないくらい誠実で優しい人なのだ。  そうでなければ、わざわざ自分の担当科目でもない俺の課題を手伝ってくれたりはしないだろうし、屋上に落ちている他人の吸殻を黙って片付けてくれたりはしないだろう。  そのことからも、先生が本気で生徒をおざなりにしているわけじゃないことくらいすぐに解る。  ……うん。やっぱり名木先生は、俺のこともちゃんと大事に思ってくれている。ただ、それ以上に瀬名を思っているだけのことで――。  要は優先順位と比率の問題なのだ。  そう頭では理解しているはずなのに、どこかで何かが納得できない。納得しようとすればするほど、裏腹に胸が締め付けられていく。  先生が瀬名を好きなのは前提で、いまさらそれを変えたいとも思っていない。  それなら理由はいったい何? 何でこんなにもやもやするんだ?  掴めそうで掴めない答えに、焦燥感ばかりが募る。一度は静まっていたはずの感情が再び昂ぶって、いまにもあふれそうになっていた。  ――引き金を引いたのは先生だった。 「まぁ……とにかく、俺は明日にでもちゃんと校長のところに辞表を持って行くから。それでお前の停学も――」 「でも俺は!」  気がつくと、俺は咄嗟にその言葉の先を阻んでいた。

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