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5.近くて遠い距離(14)
詳しい場所の説明をするまでもなく、先生は「大体分かった」と車を発進させて、そして言葉通り本当に一度も迷うことなく俺の地元まで辿り着いた。
思わず「なんでそんなに詳しいんですか?」と率直に訊いたら、先生は少しだけ間を置いて、「近くに同級生の家がある」と教えてくれた。
「あ、もうその辺でいいです。ここからなら歩ける距離なんで」
最寄り駅の近所に、少し大きめの緑化公園がある。緑化とつくだけに植物が多く、この時期ともなれば、生い茂る青葉で園内を見渡すことも難しくなるような公園だ。
俺はその園内駐車場の入口付近を指差して、「そこに停めてもらえれば」と続けて言った。
以前遊んでいた年上のお姉さんなど、車持ちの相手に送ってもらうときは、いつもその辺りの路肩で降ろしてもらうことが多かった。
(えっ……?)
なのに先生は、わざわざ駐車場に車を入れて、中でも街灯の明かりが届き辛い、通りからもより死角になるような場所でエンジンを切った。
「先生……?」
俺は首を傾げた。そんな先生の行動に、違和感を覚えたからだ。
車を停めた場所といい、位置といい、そしてわざわざエンジンまで切ったことといい、ただ俺を車から降ろすだけなら、そこまでしなくてもいい気がする。
何となく降りるに降りられなくなり、俺は窺うように先生の顔を見た。
車内を微妙な空気が包む。先生はいましばらく沈黙した後、静かに口を開いた。
「……同級生の名前、瀬名って言うんだ」
ハンドルに片手を置いたまま、先生はどこか自嘲気味に笑った。
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