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5.近くて遠い距離(18)*
「……っ、ん、……ぅ…っ…」
反射的に逃げを打つ顎先を捉えて、絡めとった舌先を緩急をつけて吸い上げる。舌裏を撫で付けるようにしながら側面を擦り合わせ、思い出したように唇を浮かせては何度も角度を変えて口付けを深めた。
そのたび先生は瞼を震わせて、唾液を嚥下しようと喉を鳴らす。
「先生……」
食むように唇を触れ合わせたまま、直接口の中に声を注ぎ込む。
身を退かれないのに乗じてそれ以上に距離を詰め、気がつけば求めることばかりに夢中になっていた。
「……なか…やっ、……ま、待て……」
名を呼ばれ、胸を押し返されて、仕方なく口付けを解く。互いの唇を濡れた銀糸が繋いで、艶かしく伸びたかと思うと、やがてぷつりと途切れて消えた。
息継ぎもままならなかったのか、先生は努めて呼吸を整えながら、熱の余韻に口元を戦慄かせていた。
「先生……、まさか、ここでお預け、なんて言わないよね……?」
「お……あずけというか……さすがに、車中 では……」
「大丈夫ですよ。先生の車、一応スモーク貼ってあるし。……それにこの場所。先生、最初からそのつもりで選んだのかと思ったくらいですよ」
からかうように言うと、先生は呆れたように息をついた。
「お前は……」
「や、だって、ちょっと寄るだけで園外 から見えないこんな奥に停めるとか……さすがに不自然でしょ」
笑ってそう続ければ、もう言葉もないとばかりに首を横に振られる。
俺は瞬き、一度窓の外を見る。僅かな間を置き、再び先生に目を戻すと、
「じゃあ……外? ここが嫌なら、外でします?」
てらいもなく提案しながら、近場にある深い茂みの辺りを指差した。
この時期は幸い死角も多いし、それはそれで可能だろうとは思う。
何なら近くにログハウス風の公衆トイレもあるけど……正直あそこではあまりしたくないな。いくら内装は綺麗でも、さすがに即物的すぎるし、何より音の通りが良すぎて先生が集中できない気がする。
「まぁ、俺は下手に外でやるより、車の中の方が誰か来たときとか、やり過ごすのが楽でいいんじゃないかと思うんですけど」
先生にはあまり知られたくないが、車中でことに及んだ経験は何度かある。その時の相手は、大学生やOLの女の人だったけど、現に車中だったからこそ事なきを得たこともあった。
最中に雨が降り出したとか、すぐ傍を人が通っていったとか。
まぁ、車だとそうそう声も外に漏れないので、そもそも気付かれ難いという点で選んでたのもあったけど。
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