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5.近くて遠い距離(20)*

「そもそも……お前は何も望んでいないんじゃなかったのか」 「今でも一応そのつもりだけど……。でも、貰える物は遠慮しません」  言葉を紡ぐことで、自然と出来る唇の隙間に、すかさず舌先を滑り込ませる。  歯列を辿り、柔らかく吸い上げた舌腹を甘噛みすると、ひくりと先生の喉が鳴った。それに続いて、ごくりと唾液を飲み込む音がする。  つられて俺も舌の根に溜まっていた唾液を嚥下して、嚥下しきれない分は舌先を絡めながら先生の口内に流し込んだ。 「んっ……ぅ、…んん……っ」  先生は瞑目し、せつなげに眉根を歪ませた。  反して俺は視界を閉ざすことができない。今目の前にある全てをこの目に焼き付けておきたくて、瞬きの瞬間すら惜しいと感じていた。 「……ていうか、先生こそ放っておいてほしいんじゃなかったの」 「それは……」  そっと頭を擡げ、からかうように言うと、先生はまた黙り込んだ。 「理由はどうあれ……こんな自分から誘うような真似して、俺が付け上がったらどうしようとか、考えなかったんですか」  問いの形で続けてはいたが、答えは特に期待していなかった。  俺は軽く座席に乗り上げ、先生の上に改めて影を落とした。そうして、諦め悪く浮いたままだった先生の肩をシートに押し付け、割らせた脚の間に強引に身を置いた。 「……、っ…!」  薄い胸板に片手を這わせ、下腹部を大腿で押し上げる。  先生はびくりと身体を震わせて、唇を引き結んだ。惑うように時折覗く瞳には、早くも水膜が浮いていた。  先生は俺を慣れていると言ったけど、先生のこの敏感すぎる身体もどうなんですか。 「先生……可愛い」  再び口付けながら囁いて、濡れた唇をぺろりと舐める。  先生の漏らす吐息は早くも甘さを帯びていて、そのくせどこか理性的に潜められているのが余計に俺の劣情を煽る。

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