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5.近くて遠い距離(21)*

 俺は薄灰色のシャツ越しに、胸の突起を指で探った。  腰を使って先生の身体を揺さぶりながら、見つけ出した小さな尖りを爪で引っ掻くと、 「ぁあ……っ!」  先生は一際高い声を上げ、白い喉をのけ反らせた。  それに伴い、突き出すように浮いた胸の先を、今度はきゅっと摘み上げる。先生の反応を確かめながら、多少痛みが走るだろうほどに引っ張って、かと思えば埋め込むように先端を押し潰した。  反動で退かれた腰も更に追い詰めて、膝上で先生の熱を押さえ付ける。そこにもまた先刻より強い力をこめた。 「は……、ぁ、よせっ……、そんな風に、する、な……っ」  肩口に乗せられていた先生の手が、二の腕辺りまでずり落ちる。咄嗟に掴んだ俺の衣服を、制したいように必死に引っ張る。 「先生、服が伸びるよ」  俺は微かに苦笑して、耳元で囁いた。 「お前が……っ、変な触り方を、するから……、っ……」 「ごめんなさい。先生はあまり意地悪されるのは好きじゃない? 優しくされる方が好き……?」  即物的に煽っていた下肢の動きを止めると、先生はおずおずと手を開いた。  俺はその指先を手に取って、忠誠を誓うみたいなキスをする。ちゅ、と微かな水音を響かせて、唇を押し当てるだけの口付けを何度も繰り返す。  他方の手には自分のもう一方の手を重ね、そっと指先を交互に絡めて、そのまま先生の顔の脇へと押さえ付けた。  先刻までとは打って変わって、焦らすかのような緩慢な所作。そうして、ちらと上目に先生の顔を見る。 「俺はこんな風に触れるのも好きですよ……。って言うか、もう相手が先生ならそれだけで幸せなんだけど」  微笑んで告げると、先生の頬がじわりと赤みを増した。「だからお前は……」と負け惜しみのような声が聞こえたけれど、それすらいまは可愛くて逆効果でしかない。

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