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5.近くて遠い距離(22)*

 俺は口元に添えていた先生の指を、頬にあてた。 「って言っても、あまり長くは我慢できそうにないから」 「……っ…」  俺が再び顔を寄せると、先生は咄嗟に息を詰めた。食むように唇を重ねれば僅かに肩を強張らせ、もう初めてのキスでもないのに、何度でもそんな反応を見せる先生に俺までどこか新鮮な気分になる。  ただ表面を触れ合わせているだけの口付けがしばらく続く。なんて稚拙な口付けだろうと思う。  でも、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。いや、寧ろいいかも。伝わる柔らかな体温が、何だか心まで優しく温めてくれるようで――。 「……っん」  そんな中、先に動いたのは先生の方だった。先生は不意に自ら口を開き、伸ばした舌で俺の唇に触れてきた。  俺は僅かに目を瞠り、しかしすぐにそれを受け入れる。顔の角度を変えて、応えるように触れた舌先を擦り合わせる。  眦がじわりと熱を持ち、濡れた息遣いに思考が霞む。大して激しくも無いキスに、腰の奥が甘く痺れた。  欲しくてたまらなくなる。  もう我慢できない。  先生の全てを俺で埋め尽くしてしまいたい。  心の中で何度も切望しながら、ひたすら唇を重ね合わせた。 「……っふ、……ぁ、……なか、やっ……」  熱っぽい声で名を呼ばれ、ようやく踏み切って顔を浮かせる。  先生は一度胸を喘がせ、それからゆっくり目を開けた。  熱と涙に揺れる眼差しが、けぶる睫毛の下から薄っすらと覗く。逆上せて茫洋とした表情が、それをいっそう色めいたものに印象付ける。 「先生っ……」  俺は堪らず先生のベルトに手をかけた。手敏くそれを外し、ファスナーを下ろして、下着ごと取り去った着衣を助手席へと投げ捨てる。  先生の目端がますます赤みを帯びる。それでも先生は全てを許し、受け入れてくれようとする。  ともすれば自分から求めるみたいに腕を伸ばし、俺を抱きしめようとすらしてくれるのだ。

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