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5.近くて遠い距離(23)*

 ――優しい先生。本当は、いまだって迷っているくせに。  本当にこれでよかったのか、本当に他に術はなかったのか。そんな葛藤が、ふとした時に伝わってくる。その瞳の奥底が、躊躇うように揺れて見える瞬間があった。  俺は先生から貰えるものなら、同情だって何だって構わないのに。  もともと根が真面目な人だから、仕方のないことかもしれない。  でも、それってもしかしたら、自分でも気付かないうちに本当は変わりたいって、変われるかもしれないって思い始めているからかもしれないですよね。  もちろん、それは単なる可能性の話で、実際何かが変わるにしても、俺の卒業までには到底間に合わないだろうけど――。  俺はどこか諦観したような心地で、ふ、と微かな笑みを浮かべた。そして、声に出さずに呟いた。 「先生って……ホント、生徒思いだよね」  笑みを深めて見下ろすと、先生が一瞬怪訝そうな顔をした。 「どうかしました?」  まさか今の言葉が聞き取れたわけではないだろうにと思いながらも、何食わぬ顔して首を傾げる。  すると先生は「いや……」と言い淀み、再び俯くように視線を伏せた。 「だったらほら……脚、少しでいいから開いてください」  ね、と促すように囁いて、俺は先生の内腿に手を添える。そのままそっと左右に開かせ、付け根を指先でなぞると、いつから溢れさせていたのか、滴る先走りでそこは既に濡れていた。 「……先生って、やっぱ感度いいですよね」  その軌跡をさかのぼり、先生の熱に直接触れる。先端に指の腹を押し当て、めくるように敏感な粘膜を露出させると、 「あっ……ぁ、い…っ……」  先生は背筋を戦慄かせ、殺し損ねた声を漏らした。  ぷくりと新たな珠を浮かせる先からくびれの下まで、小刻みに擦り立てるたび、零れ落ちる雫が俺の指先へと纏いつき、やがて卑猥な音を車内に響かせ始める。 「っや、……ぁ、っ…――」  俺の手の動きに合わせ、無意識にだろう先生の腰が僅かに揺らめく。  間も無く手の中の屹立がどくんと脈打ち、先生が堪えるように息を詰めた。今にも達してしまいそうなのだと容易に知れる。  しかし、俺はそこで不意に手を離した。 「まだですよ。……今日は先に達かせてあげない」 「――っ、……な」  煽るだけ煽られて半端に放り出され、焦れたように先生の喉が鳴る。  俺はその手を更に下方へと忍ばせて、 「俺、一緒にいきたいんです。……いいでしょ、先生」  後は粘液の滑りに任せ、会陰から後ろへと一気に指を走らせた。 「あ、ぅ……っ」  弾かれたように先生の背が撓る。反射的に退かれた腰に伴い、身体が上へとずり上がる。だがここに逃げ代なんてそうはない。

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