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6.本当の距離(6)
「先生って……本当に馬鹿だったんですね」
背後から回した腕に力を込めて、肩口に顔を押し付ける。背中越しにも、先生の鼓動が聞こえてくるようで、一層感極まったみたいに胸が熱くなった。
「そりゃ多少口は悪いけど、真面目で、優しくて、頭もいいのに……でも、やっぱり馬鹿なんですよ。馬鹿で、不器用。肝心なことは何も言ってくれないし、だから俺……」
「……これでも、俺なりに考えていたんだ。できることなら変わりたいって……そう思うようになったのは、お前の真っ直ぐな気持ちに触れたのがきっかけだったから」
「そ……れならそうと、もっと早く言ってよ。……ホント、先生は大事なところで言葉が足りな――…」
いつの間にか、込み上げた涙が溢れ出ていた。遅れてそれを自覚しても、先生からは見えない位置だと分かっているせいか、止めることはできなかった。
「……これで教師としての罪悪感も、多少は薄れる」
先生はそのままじっと佇んで、ややしてそっと俺の頭に手を乗せた。それ以上は何も言わず、ただゆっくりと髪を撫でるその動きに、図らずも目頭がまた熱を持った。
「名木先生……」
極まって名を呼んでも、振り返らないでいてくれた優しさが、胸を突いた。
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