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7.epilogue(4)
それでもやっぱり、触れたいものは触れたいし、抱き締めたいものは抱き締めたい。
……以前ならそんなこと、考えるだけでもおこがましいと思っていたのに、
「うち、結構な放任主義だよ。特にいまは夏休みだし、少々朝帰りになったって別に……」
それがいざ手の届く関係になると、途端に我慢が利かなくなるから困る。
「俺が嫌なんだ。お前はまだ高校生なんだから、出来るだけ日付が変わらないうちに家に帰したい」
食い下がっても、無駄だった。
「……相変わらず真面目な人」
「何とでも言え」
皮肉を言っても、通じなかった。
こうなってはもう取り付く島もなく、俺は肩を落として嘆息する。
「――あ、でも」
しかし、なおも諦めきれない俺は、おもむろに携帯を取り出した。それで再度時刻を確認し、独り頷く。
車内の時計は表示が消えていた。キーがオフになっているせいだ。
「日が変わるまでなら、もう少しここにいていいんですよね」
念を押すように言うと、先生は俺の意図を察したのか、仕方ないように沈黙した。片手をハンドルに乗せたまま、視線をフロントガラス越しの外へと投げる。
と言うか、よくよく考えてみれば、ここに着いてすぐからエンジンは切られているのだ。それって要するに、先生だって少しくらいは、俺との時間が欲しいと思ってくれていた、ということではないだろうか。
――まったく、素直じゃないんだから。
勝手ながらそう思うと、多少は気分が上向いてくる。
俺は先生の横顔を見詰めて、愛しいように目を細めた。
「ねぇ、先生。前にさ、先生の中の割合の話をしてくれたよね。いままではずっと瀬名が占める割合がほとんだったのに、って話」
「あ、ああ……」
「それ、いまはどうなの、俺のとこ」
いつかは聞いてみたいと思っていたことだった。だけど、聞くだけ無駄かなと思っていたことでもあった。
だって名木先生の中には未だに瀬名がいて、それはこれから先もきっと消えることはない。そんな瀬名の代わりに俺がなれるとは思えないし、要は過日の瀬名のように、先生の中を俺だけで一杯にすることは到底無理な話なのだ。
だけど、そう諦観しているうちに、それならそれで、後は比率の問題じゃないかと思えるようにもなった。
「ね、少なくとも……前より減ってはいないんだよね?」
だから俺は、開き直ってそう口にした。それなら或いは、俺でもいつかは瀬名に勝てる日がくるかもしれないと思って。
「減ってないって……」
すると先生は、一瞬固まったように動かなくなり、それから幾分呆れたように溜息をついた。
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