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7.epilogue(6)
「お前な……過半数ってことは、もう、お前の存在が……広明さんを上回ってるってことだぞ」
言葉自体は率直で、先生は漏れる溜息を隠さない。だがその面持ちは依然として柔らかく、眼差しもどこか穏やかだ。
いつもの取り澄ましたような面影もあるにはあるが、纏っている空気に隙がある。
――ああ、今度こそ錯覚じゃない。俺と先生との距離は、確実に近くなっている。
実感すると、勝手に頬が緩んだ。それを無理に堪えようとしたら、口端が引き攣りそうになり、さりげなく口許を隠す。
これだけ文句を言っているのに、その実子供みたいに喜んでいるなんて、できれば知られたくない。
「本当に、解かっているのか」
俺が何も応えなかったからか、先生は急に拗ねたみたいな口調で言った。
ハンドルの上に置いた両手に額を当てて、項垂れるように下を向く。
俺は一つ瞬いて、その顔を覗き込むように首を傾げた。
「……先生?」
名前を呼んでも反応がない。表情も陰になっていてよく分からない。
しかし、目を凝らすと髪の隙間から覗く耳の先が、仄かに赤みを帯びているように見えた。
俺は思わず目を瞠る。
「え、ちょっ……。 先生、もしかして、自分で言って自分で照れてる?」
この様子だと、恐らくそうに違いない。
その証拠に、先生は何も反論しない。反論しないどころか、首を横に振ることもせず、ただひたすらに沈黙を保って、落胆したように俯いているだけだ。
今頃になって、らしくないことをしたとでも思っているんだろうか。それとも、さっきまでの俺みたいに、素直になるのが恥ずかしくなったとか……?
「そんなに照れるようなこと言ってくれたっけ……? それとも、これから言ってくれるの?」
揶揄めかして言いながらも、今度は自然に笑ってしまう。裏腹に、先生は更に不自然に固まっていた。
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